原稿用紙3枚分

1000~1200文字で書き連ねる日記

カラスに襲われた

夕方、駅へと向かう道を歩いていました。明るく人通りの多い道を。数十台の自転車が並ぶ2段式の駐輪場を横目に。そんなところで、1羽のカラスに襲われました。

私は道路の端っこを歩きます。玄関を出ようとするたび、「人様に迷惑をかけるなよ」と母親から言われて育ったせいでしょうか。もっとも人の流れに影響が出ないと思われる、端っこを定位置として歩いています。

今にして思えば、うっすらと「カラスの鳴き声がよく聞こえる」とは感じていました。でもそれだけ。ゴミ置き場で騒いでいるカラスなんて珍しくもない。電線にカラスが止まっていても不思議じゃない。カラスが鳴いていても、いつもなにもない。だからカラスの鳴き声に注意なんて払っていませんでした。

だからいつものように、道の端っこを歩いていました。左手で駐輪場の自転車に触れられるくらいの位置を。駐輪場の脇を通り始めて3mくらいかな。頭に瞬間的な痛みを感じました。驚いて頭を触りました。つむじのあたりを。

田舎出身なら経験があるかもしれない。電灯近くでカブトムシやコガネムシが貼り付かれた経験が。あの感じです。いきなり服ごと肉をつかまれる、あの痛みに近い。ただそれよりもうちょっと痛い。

痛みを認識したあと、「カァー!」と大きな声が聞こえました。おそらくカラスは先に声を出していたはず。刺激を受け、脳が行っていた無意識のミュートが解除されたのでしょう。その結果、脳は注意力を拡大させ、あらゆる情報を認識した。ということでしょう。知らんけど。

声を認識し、カラスに襲われたと気付きました。おそらくは翼を広げて滑空した鳥が獲物を掴むスタイルで。イメージ的には、キン肉マンの超人テリーマンの得意技・テキサスコンドルキック的な。

驚く私の眼前でカラスは急旋回し、斜め後ろの自転車に着地しました。

「えっ、なに? えっ? カラス? くちばしで突かれてない? えっ、 鷲掴み? えっ、カラスなのに? 鷲掴み? あ、うんこされて無い? 血は出てない? カラスは光り物を狙うって言うけど? えっ、眼鏡? でも眼鏡は無事だけど?」

弱冠パニックになりつつも、クールに頭を撫でさすりながら歩き続けました。正直、"カラスに襲われた中年おじさん"という図が恥ずかしかった。何事もなかったように歩き続けるという選択肢しか見えませんでした。

帰宅後にGoogle先生で調べたところ、おそらく子供を守ろうとした親ガラスの攻撃らしい。なにもしてない人が襲われる場合、大体これが原因らしい。

そして落ち着きを取り戻し、ようやく私は「失敗」したのだと気付きました。こんなにもレアな体験をしたのに、立ち止まって調査をしなかった。面白いジョークでバズらせる事も考えつきませんでした。ただカラスに襲われた人になってしまった。

「これがリアルガチなんだよ」と。出川哲朗の声が聞こえる。私はただカラスに襲われた人で終わってしまったのだ。(1198文字)